衝突銀河団における暗黒物質と銀河団ガス |
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暗黒物質をろ過する銀河団は銀河と、高温の銀河団ガス(数千万度〜1億度のプラズマ)と、その数倍の暗黒物質(ダークマター)からできています。暗黒物質はその名の通り光を全く出さないので、目で見ることはできませんが、重力的には銀河団を支配していますので、観測することができます。 特に、銀河団の成長において頻繁に起きる合体衝突の時には、暗黒物質と銀河団ガスの分布がずれるという興味深い現象がおきます。 今回、アメリカ航空宇宙局NASAのハッブル宇宙望遠鏡HSTとチャンドラX線観測衛星によって新たに銀河団衝突の"真っ最中"が撮影されました。 観測されたのはくじら座領域にあるMACS J0025.4-1222という巨大な銀河団(質量が太陽1京個分≒銀河数千個分)で、ピンク色のところがチャンドラ衛星によって観測された銀河団ガスの多いところ、ブルーのところがHSTによる重力レンズ効果の観測で判った暗黒物質の多いところです。 この銀河団は2つのほぼ同じくらいの銀河団が衝突して合体しつつあると考えられています。 そうした合体衝突の場合、銀河団ガスはぶつかった時にすれ違うことができずに衝撃波で高温になりX線で明るくなります。 一方、暗黒物質の方は塊のまますれ違い、数十億年かけて徐々に一つにまとまっていきます。 この様子を私は大学院時代にコンピュータでシミュレーションしていました。 左側が衝突の前、右側が衝突の直後です。 黒い点が暗黒物質を、等高線が銀河団ガスの分布を表わしています。 2つの銀河団が互いの重力によって引き合い衝突します。 観測されたMACS J0025.4-1222はすれ違った暗黒物質の2つの塊(ブルー)の間に押しつぶされた銀河団ガス(ピンク)があって、衝突直後の様子に似ています。 ちなみに、「裸の暗黒物質1E0657−56」の場合は、大きい銀河団に小さな銀河団が突入したケースで、これも私が大学院時代に計算した結果(下図)とよく似ています。 小さな銀河団の方が左から右に衝突してきた場合、小さな銀河団の暗黒物質の中心(X印)は突き抜けて進みますが、銀河団ガスの方は大きな銀河団のガスに取り込まれ、くさびのように食い込む形になります。 ※原文は英語ですがNASAのプレスリリースをお読みください。 2008.9.9記(石坂) |